東京高等裁判所 平成5年(行ケ)1号 判決 1994年10月04日
大阪府門真市大字門真1006番地
原告
松下電器産業株式会社
代表者代表取締役
谷井昭雄
訴訟代理人弁理士
役昌明
同
小鍜治明
同
滝本智之
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官
高島章
同指定代理人
大日方和幸
同
足立忠男
同
奥村寿一
同
関口博
同
吉野日出夫
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
「特許庁が平成3年審判第16418号事件について平成4年10月19日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
2 被告
主文と同旨の判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、名称を「磁気記録再生装置」とする発明(以下「本願発明」という。)について、昭和55年10月3日、特許出願をした(昭和55年特許願第138953号)ところ、同63年5月12日、出願公告された(昭和63年特許出願公告第22512号)が、特許異議の申立てがあり、平成3年5月29日、拒絶査定を受けたので、同年8月22日に審判を請求した。特許庁は、この請求を平成3年審判第16418号事件として審理した結果、平成4年10月19日、上記請求は成り立たない、とする審決をし、その審決書謄本を平成4年12月10日、原告に送達した。
2 本願発明の要旨
「アジマス角が互いに異なり、かつ180°の角度間隔をもってとりつけられた第1および第2の主回転ヘッドを有し、磁気テープを記録時の走行速度とは異なった走行速度でもって走行させて再生する磁気記録再生装置であって、第2の主回転ヘッドのアジマス角と同一のアジマス角を有し前記主回転ヘッドと同一回転平面上において前記第1の主回転ヘッドに近接して取り付けられた第1の補助回転ヘッドと、第1の主回転ヘッドのアジマス角と同一のアジマス角を有し前記主回転ヘッドと同一回転平面上において前記第2の主回転ヘッドに近接して取り付けられた第2の補助回転ヘッドと、各々近接した位置の主回転ヘッドと補助回転ヘッドの再生出力振幅を比較する振幅比較器と、前記振幅比較器の出力信号によって各々の近接する主回転ヘッドと補助回転ヘッドの再生出力信号を切り換える信号切り換え器とを具備し、前記各主回転ヘッドの再生出力信号の振幅が前記各補助回転ヘッドの再生出力信号の振幅より低下した区間を示す前記振幅比較器の出力信号でもって、水平同期信号を単位として、前記各主回転ヘッドの再生出力信号を、前記各主回転ヘッドに近接して設けられた前記各補助回転ヘッドの再生出力信号に切り換えることにより、前記各主回転ヘッドの再生出力信号の振幅低下を補なうようにしたことを特徴とする磁気記録再生装置。」(別紙図面1参照)
3 審決の理由の要点
(1) 本願発明の要旨は前項記載のとおりである。
(2) 本出願日前の他の出願であって出願後に公開された昭和56年特許願第66648号(昭和56年12月14日出願公開、昭和56年特許出願公開第162578号公報)の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下「先願明細書」といい、そこに記載の発明を「先願発明」という。)には、
「アジマス角が互いに異なり、かつ180°の角度間隔をもってとりつけられた第1磁気ヘッド(A)および第2磁気ヘッド(B)を有し、磁気テープを記録時の走行速度とは異なった走行速度でもって走行させて再生する磁気記録再生装置であって、第2磁気ヘッドのアジマス角と同一のアジマス角を有し第1および第2磁気ヘッドと同一回転平面上において第1磁気ヘッドに近接して取り付けられた第3磁気ヘッド(A’)と、第1磁気ヘッドのアジマス角と同一のアジマス角を有し第1および第2磁気ヘッドと同一回転平面上において第2磁気ヘッドに近接して取り付けられた第4磁気ヘッド(B’)と、第3および第4磁気ヘッドの再生出力が一定レベル例えば最高レベルの50%以上でヘッド切換パルスを出力する第1および第2ヘッド切換パルス発生回路(8および9)(先願明細書10頁18行ないし11頁12行参照)と、第1ヘッド切換パルス発生回路からのヘッド切換パルスによって出力を制御される第1および第3プリァンプ(4および6)と、第2ヘッド切換パルス発生回路からのヘッド切換パルスによって出力を制御される第2および第4プリアンプ(5および7)とを具備し、第1および第3磁気ヘッドの再生出力振幅と第2および第4磁気ヘッドの出力とが同レベルとなる点付近を示すヘッド切換パルスでもって(先願明細書6頁12行ないし17行参照)、水平ブランキング内で第1および第2磁気ヘッドの再生出力を第1および第2磁気ヘッドに近接して設けられた第3および第4磁気ヘッドの再生出力に切り換えることにより、第1および第2磁気ヘッドの再生出力の振幅低下を補う磁気記録再生装置」が記載されている(別紙図面2参照)。
(3) 本願発明の第1および第2の主回転ヘッド(M1、M2)、第1および第2の補助回転ヘッド(S1、S2)、信号切り換え器(52、57、72、77)並びに水平同期信号が、先願発明の第1及び第2磁気ヘッド(A、B)、第3および第4磁気ヘッド(A’、B’)、第1、第2、第3および第4プリアンプ(4ないし7)並びに水平プランキングに相当していることは明らかである。
したがって、両発明を対比すると、アジマス角が互いに異なり、かつ180°の角度間隔をもってとりつけられた第1および第2の主回転ヘッドを有し、磁気テープを記録時の走行速度とは異なった走行速度でもって走行させて再生する磁気記録再生装置であって、第2の主回転ヘッドのアジマス角と同一のアジマス角を有し前記主回転ヘッドと同一回転平面上において前記第1の主回転ヘッドに近接して取り付けられた第1の補助回転ヘッドと、第1の主回転ヘッドのアジマス角と同一のアジマス角を有し前記主回転ヘッドと同一回転平面上において前記第2の主回転ヘッドに近接して取り付けられた第2の補助回転ヘッドと、各々の近接する主回転ヘッドと補助回転ヘッドの再生出力信号を切り換える信号切り換え器とを具備し、水平同期信号を単位として、前記各主回転ヘッドの再生出力信号を、前記各主回転ヘッドに近接して設けられた前記各補助回転ヘッドの再生出力信号に切り換えることにより、前記各主回転ヘッドの再生出力信号の振幅低下を補うようにした点で一致する。
これに対し、各主回転ヘッドの再生出力信号を各主回転ヘッドに近接して設けられた各補助回転ヘッドの再生出力信号に切り換えるのに、本願発明が各々近接した位置の主回転ヘッドと補助回転ヘッドの再生出力振幅を比較する振幅比較器から出力され各主回転ヘッドの再生出力信号の振幅が各補助回転ヘッドの再生出力信号の振幅より低下した区間を示す出力信号でもって行うのに対し、先願発明は、第3および第4磁気ヘッドの再生出力が一定レベル例えば最高レベルの50%以上で第1および第2ヘッド切換パルス発生回路(8および9)から出力され第1および第3磁気ヘッドの再生出力振幅と第2および第4磁気ヘッドの出力とが同レベルとなる点付近を示すヘッド切換パルスでもって行う点で相違する。
(4) 相違点についてみると、先願明細書の6頁12行から17行に、主回転ヘッドと補助回転ヘッドの再生出力が同レベルとなる付近で切り換えることにより第2図(ニ)に示すごとく、出力レベルがヘッド切換点付近で多少低下するが0となる部分はなく一定レベル以上の連続した再生出力を得ることができる旨が記載されており、この第2図(ニ)にも、本願の第3図(c)と同様、主回転ヘッドの再生出力の低下部分を補助回転ヘッドの再生出力で補うという同一の機能が示されていると認められる。つまり、先願発明の第1および第2ヘッド切換パルスも、本願発明の振幅比較器からの出力信号と同様、各主回転ヘッドの再生出力の振幅が各補助回転ヘッドの再生出力の振幅より低下した区間を示すという同一の機能及び役割を有している。また、先願明細書の14頁15行から20行に「本発明方法によれば、高速ピクチャーサーチ等の多倍速画像再生の際に、互いにアジマス角度の異なった隣接する2つの磁気ヘッドの出力の大きい方を選択してヘッド出力を切換えるので、再生出力が大巾に低下することがなく、良好な多倍速再生画像を得ることができる。」と記載されている。この記載は、各主回転ヘッドの再生出力信号を、各主回転ヘッドに近接して設けられた各補助回転ヘッドの再生出力信号に切り換えるのに第3および第4磁気ヘッドの再生出力が一定レベル例えば最高レベルの50%以上で第1および第2ヘッド切換パルス発生回路(8および9)から出力され第1および第3磁気ヘッドの再生出力振幅と第2および第4磁気ヘッドの出力とが同レベルとなる点付近を示すヘッド切換パルスでもって行うことが、主回転ヘッドと補助回転ヘッドの出力の大きい方を選択して各主回転ヘッドの再生出力信号を、各主回転ヘッドに近接して設けられた各補助回転ヘッドの再生出力信号に切り換えることに等しいということを意味していると認められる。
以上のことからすると、先願発明の第1および第2ヘッド切換パルス発生回路(8および9)は、主回転ヘッドと補助回転ヘッドの主力の大きい方を判定するという機能および役割を有していて且つこれを達成するための手段の一つの例にすぎず、また、出力の大小を判定する手段として振幅比較器を用いることは極めて常識的な技術であるから、上記相違点は、主回転ヘッドと補助回転ヘッドの出力の大きい方を判定する手段として、先願発明の第1および第2ヘッド切換パルス発生回路(8および9)を用いるか、極めて常識的な主回転ヘッドと補助回転ヘッドの出力を比較する振幅比較器を用いるかの単なる構成上の差異にすぎない。
(5) したがって、本願発明は先願発明と同一と認められ、しかも、本願発明の発明者が先願発明の発明者と同一であるとも、また、本出願時に本願の出願人が先願の出願人と同一であるとも認められないので、特許法29条の2により、特許を受けることができない。
4 審決の取消事由
審決の認定判断のうち、審決の理由の要点(1)ないし(3)は認めるが、(4)、(5)は争う。審決は、相違点に対する判断を誤った結果、本願発明と先願発明を同一と誤って認定したものであるから、違法であり、取消し免れない。
まず、主回転ヘッドと補助回転ヘッドの再生出力を切り換える切換信号発生手段が、本願発明の振幅比較器では、主回転ヘッドと補助回転ヘッドの2つの再生出力信号が入力されて比較されるのに対し、先願発明のヘッド切換パルス発生回路では本願発明の補助ヘッドに対応する第3および第4磁気ヘッドからの単一の再生出力信号のみが入力される点において、ヘッドの切換信号発生手段の構成を異にしている。この結果、本願発明の振幅比較器においては、主回転ヘッドと補助回転ヘッドの2つの再生出力信号のレベル変化に基づいてヘッド切換信号を発生するのに対し、先願発明のヘッド切換パルス発生回路においては、第3および第4磁気ヘッドの単一の再生出力信号が一定のレベル、例えば、最高レベルの50%以上に達するとヘッド切換パルスを発生するから、両発明の切換信号発生手段の作用(動作)は全く相違する。そして、両発明の切換信号発生手段の構成および作用が以上のように相違する結果、本願発明においては、主回転ヘッドと補助回転ヘッドの再生出力のばらっきや経時変化に関係なく、常に、再生出力振幅の大きい方を選択できるので、変速再生において良質な再生画像が得られるのに対し、先願発明では、主回転ヘッドと補助回転ヘッドの再生出力の振幅の相対関係とは無関係に、補助回転ヘッドの最高レベルの50%である基準電圧で切り換える、すなわち、主回転ヘッドと補助回転ヘッドとを時間的に半分づつ切り換えるだけであり、また、前記のような再生出力のばらつきや経時変化に応じてヘッド切換パルス発生回路の基準電圧レベルを設定し直す手段を備えていないから、常に、再生出力振幅の大きい方を選択することは不可能であり、変速再生において良質な再生画像を得ることはできず、奏する作用効果が全く相違しているものである。
なお、先願明細書(その記載内容は昭和56年特許出願公開第162578号公報記載のとおりである。)には、主回転ヘッドと補助回転ヘッドの再生出力が「同レベルとなる点付近で切換えることにより第2図(ニ)に示す如く、出力レベルがヘッド切換点付近で多少低下するが0となる部分はなく一定レベル以上の連続した再生出力を得ることができる。」(6欄14行ないし17行)との記載があるが、先願発明では上記の「同レベルとなる点付近」の期間が数水平同期信号周期に及ぶのに対し、本願発明では1水平同期信号周期内に止まる点においても、両発明の切換信号発生手段は異なる。
また、被告は、磁気記録再生装置において、2つの再生出力の比較に振幅比較器を用いることは本出願前に普通に行われていたところであると主張し、乙第1ないし3号証を援用するが、乙第1号証の315頁の図10・37の回路は、1つの入力端子を備えた「シュミット回路」ではなく、2つの入力端子を備えた「シュミット回路を用いた振幅比較回路」であり(この回路が本願発明の「振幅比較器」に相当する。)、乙第1号証の記載から明らかなように、「振幅比較回路」と311頁の図10・25に示された1つの入力端子を有する「シュミット回路」とは、項目を替えて別々の回路として取り扱われている。このように、「シュミット回路」に対応する先願発明の「ヘッド切換パルス発生回路」と「振幅比較回路」に対応する「振幅比較器」とは、機能および役割が異なるものであるから、互換性がない。また、乙第2号証の磁気記録再生装置は、主ヘッドと補助ヘッドを同一回転平面上に設けていないし、主ヘッド同士、補助ヘッド同士も同一回転平面上に設けておらず、同号証はアジマス記録方式については何も言及していない。また、再生出力の比較も、主ヘッドと補助ヘッドの再生出力の比較ではなく、「主ヘッド1Aの出力+補助ヘッド1aの出力」と「主ヘッド1Bの出力+補助ヘッド1bの出力」との比較である点においても本願発明の振幅比較器と異なる。さらに、乙第3号証の磁気記録再生装置は、各ヘッドを同一回転平面上に設けたものではない。このように、前記各乙号証は、被告の前記主張を正当化する根拠となるものではない。
以上のように、両発明は、主回転ヘッドと補助回転ヘッドの再生出力を切り換える切換信号発生手段の構成、作用および作用効果を異にするから、審決の相違点の判断は誤りであり、審決は取消しを免れない。
第3 請求の原因に対する認否及び被告の主張
請求の原因1ないし3は認めるが、同4は争う。審決の認定判断は正当である。
原告は、本願発明の振幅比較器と先願発明のヘッド切換パルス発生回路とは、構成、動作及び作用効果のいずれにおいても異なると主張するが、以下に述べるとおり失当である。
先願発明におけるヘッド切換パルスは、各主回転ヘッドの再生出力信号の振幅と各補助回転ヘッドの再生出力信号の振幅が同レベルとなる点付近を示すために発生するものであり、そのための先願発明におけるヘッド切換パルス発生回路は、各主回転ヘッドの再生出力信号の振幅が各補助回転ヘッドの再生出力信号の振幅より低下した区間を示すという機能及び役割を有する点において、本願発明の振幅比較器と互換性を有する手段である。そして、本願発明及び先願発明において、同一平面上に近接して取り付けられたアジマス角の互いに異なる主回転ヘッドと補助回転ヘッドの再生出力の振幅は、本願明細書の第3図(c)及び先願明細書(その記載内容は昭和56年特許出願公開第66648号公報記載のとおりである。)第2図(ニ)に示されているように、補完の関係になるため、第1及び第2ヘッド切換パルス発生回路へ印加される入力信号が、単一の再生出力であっても主回転ヘッドと補助回転ヘッドの出力の大きい方を判定することができることは当然のことである。この点について先願明細書には「本願発明方法によれば、高速ピッチャーサーチ(「ピクチャーサーチ」の誤記と認める。)等の多倍速画像再生の際に、互いにアジマス角度の異なった隣接する2つの磁気ヘッドの出力の大きい方を選択してヘッド出力を切換えるので、再生出力が大幅に低下することがなく、良好な多倍速再生画像を得ることができる。」と記載されており(14頁15行ないし20行)、この記載は、先願発明において同レベルとなる点付近を示すヘッド切換パルスでもって再生出力信号を各主回転ヘッドから各補助回転ヘッドに切り換えることが、各主回転ヘッドと各補助回転ヘッドの出力の大きい方を選択して各主回転ヘッドの再生出力信号を各補助回転ヘッドの再生出力信号に切り換えることに等しいことを意味しているものと認められるから、先願発明のヘッド切換パルス発生回路は、各主回転ヘッドと各補助回転ヘッドの出力の大きい方を判定するという機能及び役割を有し、かつ、これを達成するための手段の一つの例にすぎないものである。つまり、先願発明は「第1および第3磁気ヘッドの再生出力振幅と第2および第4磁気ヘッドの出力とが同レベルとなる点付近を示すヘッド切換パルス」を用いて第1及び第2磁気ヘッドの再生出力の振幅低下を補うという技術的思想の具体化に当たり、ヘッド切換パルスを発生する回路の一例として、最高レベルの50%以上でヘッド切換パルスを出力する第1及び第2ヘッド切換パルス発生回路を用いたものである。
そして、レベルの大小を判定する手段として振幅比較回路を用いることは極めて常識的な技術であり、さらに、本願発明及び先願発明のような磁気記録再生装置の分野において、同一回転平面上において、近接して取り付けられたアジマス角の互いに異なる主回転ヘッドと補助回転ヘッドの再生出力振幅を、電圧比較回路(又は、比較器)を用いて比較し、電圧の高い出力を選択することは本出願前に普通に行われていたところであり(乙第1ないし3号証)、これらの電圧比較回路や比較器は本願発明の振幅比較器に相当するものであるから、主回転ヘッドと補助回転ヘッドの再生出力の比較に振幅比較器を用いることも本出願前普通に行われていたところである。したがって、本願発明と先願発明の差異である出力の大小を判定する手段として、先願発明のヘッド切換パルス発生回路を用いるか、それとも極めて常識的な振幅比較器を用いるかは単なる構成上の差異にすぎないのである。そうすると、振幅比較器は比較される両信号の振幅が同一レベルになった時に信号を発生できるものであり、常に、振幅それ自体の大小を判定することができるものであるから、原告主張の主回転ヘッドと補助回転ヘッドとの再生出力のばらつきや経時変化に関係なく、常に、再生出力振幅の大きい方を選択し、再生画像として変速再生ができるという効果は、出力の大小を判定する手段として極めて常識的な振幅比較器が当然有しているものである。
したがって、審決の認定判断に原告主張の誤りはない。
第4 証拠
証拠関係は書証目録記載のとおりである。
理由
1 請求の原因1ないし3並びに本願発明と先願発明との間に審決摘示の一致点及び相違点が存在することについては当事者間に争いがないから、争点は、相違点についての審決の判断の当否である。
2 本願発明の概要
いずれも成立に争いのない甲第2号証(本願発明の願書添付の明細書及び図面)及び同第4号証(平成3年9月20日付け手続補正書、以下、一括して「本願明細書」という。)によれば、本願発明の概要は、以下のとおりである。
本願発明は、変速再生可能な回転ヘッド型アジマス記録方式による磁気記録再生装置(ビデオテープレコーダ)に関するものである(甲第2号証3頁1行ないし3行)。近年、ビデオテープレコーダにおける特殊(変速)再生の一つとして高速再生あるいは逆転高速再生(以下、両者を単に「高速再生」という。)が要望されているが、この場合、高速再生中に画面にノイズバー(後記認定のとおり、再生画面中に現れる横方向の縞模様をいう。)が生ずるという問題点があった(同頁4行ないし16行)。そこで、本願発明は、高速再生中のノイズバーの発生の防止を課題(目的)とし、本願発明の特許請求の範囲記載の構成、特に、高速再生中に生じる主回転ヘッドの再生出力信号の低下を補助回転ヘッドの再生出力信号によって補うと共に補助回転ヘッドの再生出力信号で主回転ヘッドの再生出力信号を補うタイミングを水平同期信号に同期して行うとの構成を採用した結果、ノイズバーのない高速再生を可能にし、併せて再生出力信号の切換時にもノイズが画面上に現れないとの作用効果を奏することを可能としたものである(同頁17行ないし4頁9行)。
3 取消事由について
(1) 先願発明の概要
成立に争いのない甲第5号証(先願発明の昭和56年特許出願公開第162578号公報、先願明細書の記載内容が同公報記載のとおりであることは当事者間に争いがない。)によれば、先願発明の概要は、以下のとおりであると認められる。
先願発明は、アジマス記録方法を採用したビデオテープレコーダの磁気録画再生方法における5倍速、20倍速等の多倍速画像再生に好適な磁気録画再生方法に関するものである(1頁右欄3行ないし7行)。アジマス記録方法によって記録されたテープを便用して逆方向ないし正方向の高速ピクチャーサーチを行う場合、第1磁気ヘッド(A)及び第2磁気ヘッド(B)は、別紙図面2第1図(ハ)に図示するように、いずれも隣接する多数の記録トラックにまたがって走行する結果、同図(ニ)に図示ずるようにアジマスロスが生じ、第1磁気ヘッド(A)からはトラック(a)走査時の出力のみが、また、第2磁気ヘッド(B)からはトラック(b)走査時の出力のみがそれぞれ取り出される。そして、この両出力をつなぎ合わせて再生出力とすると、1フィールド内に再生出力が0となる部分が数力所生じ、この部分は、ノイズバーと呼ばれる横方向の縞となって画面上に現れるため、画面は非常にみずらいものとなる(同欄8行ないし2頁右上欄6行)。そこで、多倍速画像再生の場合においても、良好な再生画像を得ることができる磁気録画再生方法を提供するべく(同欄7行ないし11行)、先願発明の特許請求の範囲記載の構成、すなわち、「同一回転平面内に回転中心に対して互いに180°の角度位置に配置され、かつアジマス角度が相異なる第1及び第2磁気ヘッドに順次ビデオ信号を供給しながら、前記第1及び第2磁気ヘッドを、所定速度で走行するテープ上に該テープの長手方向に対して所定角度傾斜して走査させ、前記ビデオ信号を記録トラックとして前記テープに記録し、再生時、前記所定速度を逓倍して前記テープを正方向若しくは逆方向に走行させ、前記第1及び第2磁気ヘッドと同一回転平面内に、かつ前記第1磁気ヘッド及び前記第2磁気ヘッドの近傍に各々配置され、前記第2磁気ヘッド及び前記第1磁気ヘッドと各々アジマス角度を同一にする第3磁気ヘッド及び第4磁気ヘッドと、前記第1及び第2磁気ヘッドとを使用し、前記記録トラックにまたがって走査することによって多倍速画像を再生することを特徴とする磁気録画再生方法。」を採択したものである。
(2) 両発明の相違点に関する構成について
主回転ヘッド(先願発明の第1、第2ヘッドが本願発明の各主回転ヘッドに相当することは当事者間に争いがないから、以下、これらも「主回転ヘッド」という。)とこれに近接する補助回転ヘッド(先願発明の第3、第4ヘッド、前同様であるから、以下、これらも「補助回転ヘッド」という。)の再生出力信号を切り換えるために、本願発明は振幅比較器を用いるのに対し、先願発明の実施例においてはヘッド切換パルス発生回路を用いる点において両発明が相違することは当事者間に争いがない。そして、原告は、両発明の上記各再生信号切換手段は、構成、作用及び効果を異にするから両発明は同一発明ではないと主張するので、以下、検討する。
本願発明の振幅比較器が、主回転ヘッドとこれに近接する補助回転ヘッドの各再生出力信号を入力し、その大小を比較するものであることは当事者間に争いのない前記本願発明の要旨から明らかである。そこで、先願発明のヘッド切換パルス発生回路についてみると、前掲甲第5号証には先願発明の唯一の実施例に関して、「テープ(2)を巻戻し時と同一速度で移送しつつ、逆方向の高速ピクチャーサーチを行なう場合、第1~第4磁気ヘッド(A)(B)(A)’(B)’が順次テープ(2)上の記録トラックにまたがつて走査し再生出力を得る。この場合、磁気ヘッドの走査軌跡は従来同様第1図(ハ)の如くなる。まず第1磁気ヘッド(A)及びこれに近接配置されたアジマス角度の異なる第3磁気ヘッド(A)’がテープ(2)の右下から左上へ順次記録トラックをまたがつて走査する。このとき、第1磁気ヘッド(A)及び第3磁気ヘッド(A)’の出力は第2図(ハ)の実線及び点線で示す如くなる。すなわち、第1磁気ヘッド(A)がトラック(a)からトラック(b)に移動する際、アジマスロスによりヘッドの出力が低下し始めると、第3磁気ヘッド(A)’のヘッド出力が増加し始める。この結果、両ヘッドのうちいずれか一方の出力は常にある程度のレベル以上にあることになる。従つて両ヘッド出力を、後述するヘッド切換パルスによつて両ヘッド出力が同レベルとなる点付近で切換えることにより第2図(二)に示す如く、出力レベルがヘッド切換点付近で多少低下するが0となる部分はなく一定レベル以上の連続した再生出力を得ることができる。」(2頁左下欄下から5行ないし右下欄下から4行)との記載が認められ、この記載によれば、主回転ヘッドとこれに近接して設けられたアジマス角の異なる補助回転ヘッドを有する磁気記録再生装置において、高速ピクチャーサーチ、すなわち、多倍速再生をすると、各回転ヘッドが順次アジマス角の異なるトラックをまたがって走査するため、アジマスロスにより主回転ヘッドの再生出力が低下すると補助回転ヘッドの再生出力は増加するという相互補完の関係になること(前掲第2図(二)図参照)、上記両ヘッドの再生出力が以上のような相互補完の関係にあることから、ヘッド切換パルスによって両ヘッドの再生出力レベルが同程度となる点付近でヘッドを切り換えることにより、常に一定レベル以上の連続した再生出力を得ることが可能となることは明らかなところである。そこで進んで、先願発明の前記実施例のヘッド切換パルス発生回路について更に詳しくみると、前掲甲第5号証には、「多倍速画像再生時には、第1~第4磁気ヘッドABA’B’に各々第1~第4プリアンプ(4)(5)(6)(7)が接続される。この各プリアンプには図示省略したスイッチャーが内蔵されており第1、第2ヘッド切換パルス発生回路(8)(9)の各々Q及びQ出力により制御される。次に第1ヘッド切換パルス発生回路(8)を第5図の各部波形図に従い説明する。第3プリアンプ(6)の出力すなわち第3磁気ヘッド(A)’のトラック(b)の走査により得られた出力(c)を第1エンベロープ検出回路(81)によりエンベロープを検出した出力(d)を第1波形整形回路(82)にて一定のレベル例えば最高レベルの50%以上でハイ、それ以下でローとなるようなパルス(e)に波形成形し、第1フリップフロップ(83)にてQ出力(f)とQ出力(g)とを得る。この両出力をヘッド切換パルスとして各々第1、及び第3プリアンプ(4)(6)の出力を制御する。」(3頁右下欄下から8行ないし4頁左上欄9行)との記載が認められ、この記載によれば、上記実施例においては、前記認定の常に一定レベル以上の連続した再生出力を得ることを可能とするための構成の1例として、補助回転ヘッドの再生出力の最高値の50%をもって切換パルスを発生するヘッド切換パルス発生回路を開示しているものである。
以上によれば、先願発明の実施例として開示されたヘッド切換パルス発生回路は、主回転ヘッドと補助回転ヘッドの各再生出力レベルが同一となる点付近でヘッドの切換えを行うことによりノイズバーの出現を防止しようとするに当たり、上記各ヘッドの再生出力の増減が相互補完の関係にあることを利用して、補助回転ヘッドの再生出力レベルの50%以上で切り換えることにより、前記の両再生出力レベルが同一となる点付近におけるヘッドの切換えを実現しようとしたものであることは明らかであり、上記実施例に示されたヘッド切換パルス発生回路においても、常に一定レベル以上の連続した再生出力を得るために、主回転ヘッドの再生出力と補助回転ヘッドの再生出力を直接比較した場合と同様の結果を得るべく、前記認定の構成を採用したものであり、また、前記認定の先願発明の特許請求の範囲の記載においてはヘッド切換パルス発生回路の具体的な構成を何ら限定していないし、先願明細書の前記認定の記載からも、前記実施例の構成は一つの例示にすぎないことは明らかである。
そうすると、本願発明の振幅比較器と先願発明の実施例に示されたヘッド切換パルス発生回路は、その構成を異にする(この点は審決も相違点として摘出しているところである。)が、共に、多倍速再生時におけるアジマスロスに起因するノイズバーの発生を防止するため、アジマスロスにより次第に低下する主回転ヘッドの再生出力を次第に増加する補助回転ヘッドの再生出力に切り換えることにより再生出力を一定レベル以上に維持するという技術的意義を有するものであるから、前記振幅比較器及びヘッド切換パルス発生回路は、課題(目的)及び役割において同一であるというべきである。
そして、前記認定のように、先願発明においては、主回転ヘッドの再生出力と補助回転ヘッドの再生出力の切換手段について、前記実施例に示されたヘッド切換パルス発生回路に何ら限定していないのであるから、審決が指摘するように、本願発明が採用した振幅比較器が各再生信号出力の比較手段として本出願前周知の方法であるならば、振幅比較器を採用したことに起因する原告主張の各種の作用効果も、特段の事情がない限り、当業者において予測可能なものといわざるを得ないものであり、その意味で、この点の構成の違いは単なる設計事項というべきものであるから、次に、2つの再生出力レベルの比較手段として、振幅比較器が本出願前周知の技術的手段であったか否かについて検討することとする。
(3) 本出願前における振幅比較器の周知性について
成立に争いのない乙第1号証(昭和36年7月10日株式会社朝倉書店発行、熊谷三郎編著「電子工学ハンドブック」)には、第10章「トランジスタパルス回路」の中に「振幅比較回路」と題する項(315、316頁)があり、「2つの信号を比較して、その大小によってパルスを発生したり、それらの差の信号を発生する回路」として、「差動増幅回路」、「シュミット回路を用いた振幅比較回路」、「ブロッキング発振回路を用いた振幅比較回路」及び「マルチァ回路」が回路図と共に記載されていることが認められるところ、上記の刊行物はその題名及び目次からみて、「電子工学」の技術分野における一般的技術事項を記載したものと推認することが可能であることに照らし、上記の各種振幅比較器が本出願前周知の技術的事項であったものと認めることができる。
次に、成立に争いのない乙第2号証(昭和50年特許出願公開第93030号公報)には、2つのビデオ記録軌跡群を有する磁気テープを記録再生する磁気記録再生装置における、テープ停止時におけるスチル画像再生時あるいはテープ速度を遅くした時のスロー画像再生時に、磁気ヘッドが記録軌跡間にある無信号帯を再生することから、ノイズバンドが再生画面上に現われるとの欠点を解消するために(1頁右欄1行ないし12行)、「スチル再生時にはヘッド(1A)と(1a)及び(1B)と(1b)のそれぞれの直列出力信号をエンベロープ検波回路(3A)及び(3B)で検波し、両検波出力を電圧比較回路(4)で電圧比較し、該出力によりヘッド(1A)と(1a)あるいは(1B)と(1b)のどちらか一方の組の選択切換えを行なうようになしたことを特徴とする磁気記録再生装置。」(特許請求の範囲)が提案されていることが認められる。そして、同公報には、上記発明の実施例における前記の選択切換動作につき、「そしてヘッド(1A)(1a)および(1B)(1b)のそれぞれの直列出力信号はエンベロープ検波回路(3A)(3B)に加えられる。この検波回路(3A)(3B)の出力は例えばヘッド(1B)(1b)側の再生軌跡が丁度記録軌跡上を再生している場合は、記録軌跡上を再生しない側のヘッド(1A)(1a)のエンベロープ変動の方が大きいので、第7図(a)および(b)の如くなる。そこでこの成分を整流すると検波回路(3A)の方からの電圧は検波回路(3B)よりも高くなるので、この両電圧を電圧比較回路(4)で電圧比較し、その出力でスイッチ(SW2)を切換え固定する。従つて、ヘッド(1B)(1b)側で記録軌跡B側を再生した良好なスチル信号が復調回路に送られる。以上本発明によればスチル時に機械的にテープ傾斜角を調整することを必要としないで、スチル画像を得ることができる。また2組の主および補助ヘッドによりこれに対応する2つのビデオ記録軌跡群からスチル画像を再生でき、かつ丁度記憶軌跡上に乗るスチル軌跡をもつた側の1組の主および補助ヘッドを自動的に選択することができるので、駒合せの不必要な完全な自動スチル再生を行なえる利点を有する。」(2頁右下欄下から5行ないし3頁左上欄17行)との記載が認められ、以上の各記載によれば、上記発明においては、スチル画像再生時に生ずるノイズバーを防止するために、一対の主回転ヘッドと補助回転ヘッドである(1A)(1a)と(1B)(1b)のそれぞれの再生出力信号をエンベロープ検波回路を通して電圧比較し、その出力でヘッドの切換えを行っていることは明らかである。また、成立に争いのない同第3号証(昭和50年特許出願公開第135919号公報)には、磁気記録再生装置におけるスチル画像再生時及びスロー画像再生時に、テープ速度が記録時と異なることから、ビデオヘッドの軌跡とビデオトラックの間にずれを生ずることにより再生出力が低下し、画面に生ずるノイズを防止する発明(1頁左欄下から6行ないし右上欄3行)に関し、各ビデオヘッドを取付位置を変えた2チャンネルヘッド構成とし、スロー時及びスチル時には、2チャンネルからなる各ビデオヘッドの再生出力を比較してその大きい方の出力を取り出す発明(特許請求の範囲)が開示されている。そして、上記の出力の比較切換えに関し、前掲乙第3号証には、「第5図(b)(c)の出力はエンベロープ検波器(18)(19)でエンベロープ検波され、比較器(20)で比較される。そし『て比較器(20)の出力によりスイツ(「スイッチ」の誤記である。)回路(21)を動作させ、大きい方の出力すなわち第5図(d)の波形信号をビデオ復調回路(22)に入力することにより、ノイズやビートのないビデオ出力が得られる。」(2頁右上欄下から6行ないし左下欄1行)との記載が認められ、以上によれば、上記発明においては、スチルないしスロー画像再生時に生ずるノイズバーを防止するために、主回転ヘッドと補助回転ヘツドの再生出力信号の大小をエンベロープ検波回路を通して比較し、その大小でヘッドの切換えを行っていることは明らかである。しかも、前掲乙第2、3号証を精査しても、上記の比較回路ないし比較器の採用に関し、その技術的意義について格別言及した記載が見当たらないことからすると、かかる技術的手段は前記各発明の出願時点においても格別新規な技術的手段ではなかったものと推認できるところである。
もっとも、前掲乙第2、3号証における各回転ヘッドは同一平面上に設けられたものではないという点において、また、比較する再生信号についても乙第2号証の磁気記録再生装置においては、本願発明における主回転ヘッドと補助回転ヘッドの関係にある再生出力信号ではないことは前記認定のとおりであり、これらの点において本願発明とヘッドの構成及び対象とする再生信号の種類等を異にするが、振幅比較器は再生された出力信号の大小の比較手段の問題であり、再生信号を生ぜしめるヘッド構成や、いかなる再生信号を比較の対象とするかの問題と技術的な次元を異にすることは明らかであり、また、本件全証拠を検討しても、2つの再生出力の大小を比較するという技術手段が、上記のようなヘッド構成の違いないしは対象とする再生信号の異同によって影響を受けるとの技術的理由は見いだし難いから、この点を指摘する原告主張は採用できない。
そうすると、以上認定の事実によれば、本出願前において、振幅比較回路には、前掲乙第1号証記載の各種のものが存在することは周知であり(前記の「シュミット回路を用いた振幅比較回路」が本願発明の振幅比較器に対応することは原告の自認するところである。)、さらに、本願発明の磁気記録再生装置の分野において、2つのヘッドの再生出力の大小の比較に基づきヘッドを切り換えるに際して、エンベロープ検波回路を使用して大小を比較する比較器の存在は、前記の乙第2、3号証記載の発明の出願時において既に新規な技術的手段とは認め難い上、さらに前記の各出願公開公報が公開された時期から本出願時までに約5年が経過していることからみても、周知の技術的事項であったものといって差し支えがないというべきである。
そこで、進んで、本願発明における振幅比較器の構成についてみると、前掲甲第2号証及び成立に争いのない同第3号証(平成元年4月7日付け手続補正書)によれば、本願明細書には、その実施例に関し、「まず、第3図(a)に示すようなヘツド出力信号が前置増幅器51から出力されたとすると、振幅検出器53からは第3図(d)に示すようなエンベロープ信号が出力される。なお、振幅検出器53は、たとえば周知のダイオード検波回路からなる。同様に、第3図(b)に示すようなヘツド出力信号が前置増幅器56から出力されたとすると、振幅検出器58からは第3図(e)に示すようなエンベロープ信号が出力される。振幅検出器58は振幅検出器53と同一の構成とする。これらのエンベロープ信号がコンパレータ55でレベル比較され、D型フリツプフロツプ回路60に入力される。振幅検出器53、振幅検出器58およびコンパレータ55とで、振幅比較器を構成する。」(甲第2号証9頁16行ないし10頁8行及び同第3号証2頁6行ないし8行)との記載が認められ、この記載によれば、本願発明の実施例においてもエンベロープ検波回路を通して再生出力信号の大小を比較している点において前記認定の本出願前周知の比較器と異なるものではない。
してみると、先願明細書には、主回転ヘッドの再生出力と補助回転ヘッドの再生出力の大小を比較する手段として、前記認定のヘッド切換パルス発生回路の1例しか記載されていない(先願明細書がこの回路に限定する趣旨でないことは既に説示したとおりである。)が、前記認定のような本出願前周知の技術状況を踏まえて先願明細書を見るならば、当業者は、2つの再生出力の大小の比較手段として、前記認定の周知の比較器の構成を容易に想到することが可能というべきであるから、このような比較器を採用して再生出力の大小を比較することは、単なる設計事項にすぎないとみて差し支えがないというべきである。
(4) 原告は、本願発明の振幅比較器を先願発明のヘッド切換パルス発生回路と比較して、経時変化等により主回転ヘッドの再生出力と補助回転ヘッドの再生出力にばらつきを生じた場合において、前者が後者より作用効果において優越する旨主張するが、前記認定のとおり、再生出力の大小を比較するために振幅比較器を採用すること自体が本出願前周知の技術的事項であり、単なる設計事項にすぎないものである以上、上記のような作用効果は2つの再生出力を比較するという構成自体から生ずるものであるから、当業者において、当然に予測可能な作用効果ということができ、本件全証拠を検討してもこれを予測できない格別の作用効果であると認めるに足りる特段の事情は存しない。
(5) 以上の次第であるから、先願発明は、本願発明と同一の技術的課題(目的)を認識し、これを本願発明と同一の技術的思想に基づいて解決し、本願発明と同様の作用効果を奏したものというべきであるから、両発明を同一であるとした審決の判断に原告主張の違法はないというべきである。
4 よって、本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 田中信義)
別紙図面1
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別紙図面2
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